第二次 「ことばの探検隊」レポート
- By 助手石川
- Published:2009/10/15(木)
- Keyword: ことばの探検隊
「馬場まで東西線で行く?」
「電車賃もったいなから馬場あるきしようよ」
早稲田の学生にしか通じないけれど,早稲田の学生にはとてもよく使われることばがあります。
それが早稲田大学の「キャンパス言葉」です。
キャンパス言葉は時代とともに変化します。長きにわたり通用するものがある一方で,一過性の流行で終わるものもあります。
どのようにキャンパス言葉は変化するのか。どうしてキャンパス言葉は変化するのか。
2009年10月7日,「第二次 戸山キャンパス ことばの探検隊」の探検先は,キャンパス言葉ということばの森でした。
1997年,当時の文学部国語学研究班(秋永一枝先生)により『早稲田大学キャンパス言葉辞典』が編纂されました。
早稲田大学の学生(文学部学生100人,本部学生50人)にアンケート調査を行い,キャンパス言葉の使用状況を調べ,各語に★~★★★★★の「なじみ度」を表示したものです。
現在,本辞典の改訂版を出す計画がすすめられています。今回の調査は改訂版のための予備調査ともいえるもので,10語のキャンパス言葉について調査を行いました。
〈今回調査したキャンパス言葉〉
馬場あるき,学館,文カフェ,はまり,代返,切る,チャイ語,文キャン,本キャン,学祭
この10語には,早稲田大学でしか通じない,他大学でも使われるが日常生活では使われない,大学によって意味が異なるなど,さまざまな属性の語が含まれています。
会場に集まっていただいたみなさんに,まずそれぞれの語について「普段よく使う」「まれに使う」「知っているが使わない」「全く知らない」の4つの中からひとつを選んでいただき,続いて二人一組となっての調査をお願いしました。
最終的に,15人の調査結果が得られました。その結果が,次の表です。
(「普段よく使う」は3点,「まれに使う」は2点,「知っているが使わない」は1点,「全く知らない」は0点として計算しています)
| 普段 よく使う |
まれに 使う |
知っている が使わない |
全く 知らない |
点数 | なじみ度 | 1997 | 傾向 | |
| 馬場あるき | 9 | 4 | 2 | 37 | ★★★★★ | ★★ | 増 | |
| 学館 | 10 | 1 | 3 | 1 | 35 | ★★★★ | ★★★ | 増 |
| 文カフェ | 13 | 2 | 41 | ★★★★★ | 項目なし | 増 | ||
| はまり | 4 | 8 | 3 | 28 | ★★★★ | ★★★★★ | 減 | |
| 代返 | 6 | 7 | 2 | 34 | ★★★★ | ★★★★★ | 減 | |
| 切る | 8 | 2 | 4 | 1 | 32 | ★★★★ | ★★★★★ | 減 |
| チャイ語 | 7 | 3 | 5 | 32 | ★★★★ | ★★★★★ | 減 | |
| 文キャン | 14 | 1 | 43 | ★★★★★ | ★★★★★ | - | ||
| 本キャン | 13 | 1 | 1 | 42 | ★★★★★ | 項目なし | 増 | |
| 学祭 | 1 | 3 | 11 | 20 | ★★★ | ★★★★★ | 減 |
(★★★★★=45~37点,★★★★=36~28点,★★★=27~19点、★★=18~10点,★=9点~)
一部の語について解説をします。
「馬場あるき」
1997年にはあまり早大生になじみのなかった「馬場あるき」は,現在の早大生にはかなり一般的な語となっています。
この語は,「高田馬場(駅)」と「あるき」という2語を組み合わせての造語ですが,これはキャンパス言葉としてはめずらしい構造です。
「歩く」という動詞,または「歩き」という名詞形が複合語をつくるとき,通常は「売り歩く,ほっつき歩く,渡り歩く」「かに歩き,しのび歩き」のように,前の成分が「歩く」「歩き」の内容を詳しくするものですが,「馬場あるき」の場合は「高田馬場駅“へ”歩くこと」という意味であり,「馬場」は「あるき」の目的語にあたります。
また,場所や地名が前の成分となる複合語には,ほかに「街あるき」や「銀ぶら」などがありますが,それぞれ「街の中を歩くこと」「銀座通りをぶらぶら歩く」という意味です。しかし「馬場あるき」は「高田馬場周辺」を歩くことではなく,「高田馬場駅へ向かって」歩くことであり,意味的にも通常の複合語とは性格が異なります。
「馬場あるき」は,まさに早稲田大学独特のキャンパス言葉といえるでしょう。
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「文カフェ」:
今回の調査ではほとんどの人が「普段よく使う」と回答をしましたが,1997年版ではそもそも「文カフェ」という項目がありませんでした。
1997年版では,「カフェ,カフェテリ」がそれぞれなじみ度★★★であり,「戸カフェ」がなじみ度★となっています。
戸山カフェテリアは1992年に完成したもので,当時はまだ呼称が固定されていなかったのかもしれません。「文キャン,本キャン」のように,早稲田(旧西早稲田)キャンパスのカフェテリアとの差別化をはかるために,最終的に「文カフェ」という呼称に落ち着いたものと考えられます。
キャンパス言葉(や若者言葉)においては,複合語を作る際,それぞれの要素が2モーラ(およそ仮名2文字分の長さの音)になりやすいという特徴があります。「と・かふぇ」よりは「ぶん・かふぇ」の方が音が安定しているため,「戸カフェ」ではなく「文カフェ」が定着したのでしょう。
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「はまり」「代返」「切る」:
単位に関する語は,まさにキャンパス言葉ならではのものです。現在でもこれらの語はよく使われているといえますが,1997年に比べると,ややなじみ度はダウンしています。「はまり」は,全く知らないという回答も3人から得られました。「はまり」の講義や,友達に「代返」を頼むこと,講義の単位を「切る」ことが,最近では少なくなっているのでしょうか? それとも,また別の語が生まれているのでしょうか。
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「学祭」:
「学祭」は,1997年当時は代表的な早稲田大学のキャンパス言葉のひとつでした。「早稲田祭」というよりも,むしろ「学祭」という学生のほうが多かったものと思われます。しかし現在では,ほとんどのひとが「学祭」ということばを知ってはいても,「早稲田祭」を使うようです。
早稲田祭には,1997年から2001年まで中止されたという歴史があります。5年間中止になったことで学生の大半が入れ替わり,「学祭」を使用する学生がいなくなりました。その後2002年に早稲田祭は復活しましたが,「学祭」という呼称が使われることはなく,現在にいたります。
こうして,第2次ことばの探検隊も終了しました。
今後は,本格的に早稲田キャンパス言葉辞典の改訂作業に入ります。より詳細な調査を行い,キャンパス言葉の過去と現在を探ってゆきます。
早稲田大学のキャンパス言葉という大きなことばの森を探検するには,多くの方のご協力が必要です。
興味のあるかたは,ぜひ『改訂版早稲田大学キャンパス言葉辞典』の編集委員としてご参加ください。複合文化論系室に直接おいでいただくか,電話やメールでも受け付けております。
多くの方のご参加,お待ちしています。

