早稲田大学 文化構想学部 複合文化論系

　明治時代以降、西洋の哲学が本格的に日本に入ってきました。「哲学」という言葉も、明治時代に、「philosophy」の訳語として作られました。そのような中、明治から昭和にかけて、西洋の哲学者からの影響を受けつつ、独特な思索をした日本の哲学者たちがいました。本講義では、日本の哲学者たちが何を考えたのか、そのポイントを解説します。できるだけ例をとおして具体的に解説します。予備知識はいりません。

日本で最初の独創的な哲学者と目されるのは、西田幾多郎です。西田の思想は多岐にわたりますが、本講義では、
●西田の他者論、感覚論、言語論、時間論、芸術論、身体論、自己論、行為論などのポイントを解説します。

西田と同僚だった哲学者として、九鬼周造、和辻哲郎、田辺元がいます。本講義では、
●九鬼の「いき」についての思想、「偶然性」の哲学
●和辻の人間観、風土論（環境論）、芸術論
●田辺の「社会存在論」の基本的発想、「死」についての思想を解説します。

西田の有名な弟子として、三木清と西谷啓治がいます。本講義では、
●三木の技術論
●西谷の時間論、他者論のポイントを解説します。

西田の若いころからの友人で、世界的に有名な仏教学者として、鈴木大拙がいます。本講義では、
●大拙の「無心」についての思想を解説します。

以上の日本の哲学者に影響をあたえた西洋の哲学者の思想も、適宜参照します。

第1回　オリエンテーション　本講義の概要、進めかた、成績評価方法などについて説明します。

第2回　西田幾多郎（1）
　最初に、西田のデビュー作『善の研究』を取り上げる。西田は「善い行為とはどのような行為か？」という問題をめぐって、さまざまな哲学者（ストア派、功利主義、ドゥンス・スコトゥスなど）の考えかたを紹介したうえで、自分のスタンスを表明している。まずは、それを概観する。

第3回　西田幾多郎（2）
　「善い行為とはどのような行為か？」という問題についての西田自身の思想を解説する。

第4回　西田幾多郎（3）
　西田の感覚論、自己論、他者論などのポイントを解説する。

第5回　西田幾多郎（4）
　西田の言語論、時間論、芸術論、身体論などのポイントを解説する。

第6回　九鬼周造（1）
　近年、研究が盛んになってきている日本の哲学者として、九鬼周造がいる。九鬼の哲学は、「いき」についての思想と、「偶然性」についての哲学との2本柱である。最初に、前者から取り上げる。九鬼の定義によれば、「いき」とは、束縛されない「自由なる浮気心」である。「いき」についての九鬼の思想は他者論の一種にはちがいないが、特に異性との関係に焦点を当てた、かなり特異な他者論である。まずは、「いき」とは何かについて、より詳細に解説する。

第7回　九鬼周造（2）
　九鬼は「いき」を服装や身体表現、日本文化においても見て取る。その点を解説したい。

第8回　九鬼周造（3）
　九鬼の「偶然性」についての哲学を取り上げる。九鬼は、「偶然性」と一口に言っても、3種類の偶然性があると言う。まずは、その3種類の偶然性を解説する。

第9回　九鬼周造（4）
　九鬼の偶然論の特徴および真意について解説する。

第10回　和辻哲郎（1）
　和辻哲郎は、「和辻倫理学」と呼ばれる壮大な体系をつくったことで有名である。講義では、そのベースにある和辻の基本的な「人間観」を解説する。また、和辻は『風土』という著作のなかで、「環境」と人間との関係について思索している。その基本的発想も解説する。

第11回　和辻哲郎（2）
　「埴輪」や「能面」などについての和辻の芸術論を紹介する。そこに見られる和辻の感性は、高く評価されることが多い。

第12回　西谷啓治
　西谷啓治は、西田の弟子の1人で、西田哲学の宗教哲学側面の後継者と目される人である。とりわけアメリカでは、西田哲学以上に西谷の宗教哲学が研究されている。本講義では、特に西谷の時間論、他者論のポイントを解説する。

第13回　鈴木大拙
　鈴木大拙は、世界的に有名な仏教学者である。大拙は、西田と同級生であり、生涯の友人だった。大拙の思想には、西田からの影響も見られる。本講義では、特に大拙の「無心」をめぐる思想を紹介する。

第14回　田辺元
　田辺元は、九鬼と同様に、近年、注目されてきている哲学者である。田辺は、人間をとりわけ「社会」との関係で思索したことで有名である。まずは、田辺の「社会」についての思索の基本的発想を解説する。また、しばしば取り上げられる、田辺の「死」についての思想も解説する。

第15回　三木清
　西田の有名な弟子の1人として、三木清がいる。三木の思想のなかでも注目されることの多い、「技術論」を紹介する。