異文化の伝播と受容

基本情報

科目名
異文化の伝播と受容
副題
グローバル化と東アジア美術コレクションの形成
授業タイプ
講義科目
担当教員
楢山満照
曜日
木曜日
時限
4時限
教室
36-581
授業シラバス
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授業概要

 アメリカやヨーロッパで美術館に立ち寄ると、思いもよらず日本や中国の美術品の充実したコレクションを目にする、ということがあります。こうしたコレクションの核となる作品の多くは19世紀後半から20世紀初頭にかけて蒐集されたもので、その背景には、東アジアを取り巻いていた緊迫した政治情勢のほか、運輸システムと情報ネットワークのグローバル化がありました。ただし、オリエンタルでエキゾチックなものを求める欧米人の蒐集欲を、図像と漢字から構成されるシンボリックな東アジアの美術品が満たしていた、と単純に解釈することはできません。というのも、興味深いことに、同じ時期にここ日本でも、自国の文化の母胎である中国の美術品をコレクションする現象がみられたからです。
 とすると、東アジアの美術品の伝播は世界規模でおこなわれていたことになり、それをコレクションすることは何を目的とした行為であったのか、とりわけ、中国の伝統を受容してそれを理解することは何を意味していたのでしょうか。さらに、文化の基盤が異なる欧米と日本とでは、コレクションの内容と形成過程、そして思惑に違いがあったと想定されます。
 東洋や西洋といった各文化圏の枠組みが曖昧になり、世界の距離が目まぐるしい速さで縮まってきている昨今、過去に世界規模で起きた東アジア美術コレクションの形成過程をグローバル化という視点から分析することは、多様な文化が複合的に重なり合い構成される現代の文化をあらためて考え直すためのひとつの題材になるはずです。

授業計画

第1回 ガイダンス
本科目の目的、進め方のほか、本科目の話題の核となる中国歴代皇帝の故宮コレクションの概要について説明します。

第2回 中国の知識人にとっての「書」
中国美術における書の優位性に着目しながら、西洋の伝統的な芸術観との比較をおこないます。

第3回 中国美術とハンコの関係
名品といわれるような中国美術の作品には、なぜあんなにも沢山のハンコが捺されているのか。中国美術を取り巻いてきた歴史的状況とハンコとの関連について説明します。

第4回 徽宗と乾隆帝
芸術をこよなく愛した二人の皇帝、徽宗(在位1100~1125)と乾隆帝(在位1735~1795)。この二人の思惑を分析しながら、中国における芸術と政治の接点について検討します。

第5回 シノワズリーと中国の洋風画
17世紀から19世紀にヨーロッパで流行したシノワズリー(中国趣味)。そして、同じ時期に中国国内で制作された洋風画。双方の表現を比較検討しながら、オリエンタルさやエキゾチシズムとは何かについて考えていきます。

第6回 東山御物と数寄(すき)
室町時代に足利将軍家が蒐集した中国伝来の唐物(からもの)を東山御物といいます。この回では、東山御物の内容を確認しながら、何を目的として、どのような基準でこのコレクションが形成されたのか、その経緯についてみていきます。

第7回 東山御物の政治的作用
前回の内容を引き継ぎ、この回では、東山御物を題材として、日本における芸術と政治の接点について検討します。

第8回 「わび・さび」と日本の茶器
「わび・さび」といえば、古びていて、それでいて渋みのある閑寂の趣のこと。日本の茶道で重んじられる表現美ですが、そのルーツはどこに求められるのか。この回では、交易品として珍重されてきた茶器を題材として、各文化圏にみる芸術観の差異とその変容について説明します。

第9回 日本刀の美学
武士の魂、あるいは武士道の象徴ともいわれる日本刀。極めて殺傷能力の高い実用の兵器でありながら、一面においては装身具という意味合いもあり、高度な金工技術が駆使された芸術品として、世界規模でマーケットが確立されています。さらに昨今は、その冴え渡る妖しさに魅入られる若者が続出し、オンラインゲームの影響もあって空前の日本刀ブームだとか。この回では、日本刀をめぐる物語や逸話を紹介しながら、日本刀がグローバルな展開をみせるに至った要因について考えていきます。

第10回 欧米における東アジア美術コレクションの形成 その1
中国歴代皇帝の故宮コレクションがマーケットに流出し、その一部が欧米にわたるまでの経緯について、美術商の動向に着目しながら説明します。

第11回 欧米における東アジア美術コレクションの形成 その2
ボストン美術館のコレクションの形成過程と、岡倉天心の活動についてみていきます。

第12回 欧米における東アジア美術コレクションの形成 その3
フリーア美術館と大英博物館のコレクションの形成過程についてみていきます。

第13回 日本の実業家によるプライベートコレクションの形成 その1
明治から昭和にかけて、日本でも多くの実業家たちが東洋の至宝を蒐集することに心血を注ぎました。この回では、三井財閥の益田孝(鈍翁)、三菱財閥の岩崎彌之助、住友財閥の住友春翠などの活動を紹介しながら、文化人にとって美術コレクションをもつことは何を意味していたのかを考えていきます。

第14回 日本の実業家によるプライベートコレクションの形成 その2
前回の内容を引き継ぎ、日本の実業家によるプライベートコレクションについてみていきます。この回では、根津嘉一郎、出光佐三、藤田傳三郎などの東洋美術コレクションを紹介しながら、比較の対象として松方幸次郎によるフランス美術コレクション(松方コレクション)をあげ、日本における「美術鎖国的意識」について検討していきます。

第15回 理解度の確認
授業時間中にテストを実施し、理解度の確認をおこないます。あわせて解説もおこないます。