世界の言語と日本語

基本情報

科目名
世界の言語と日本語
授業タイプ
講義科目
担当教員
吉田健二
曜日
木曜日
時限
3時限
授業シラバス
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授業概要

 言語類型論(LinguisticTypology)は,世界の言語の特徴をできるかぎりひろくしらべ,ヒトの言語にとって普遍的な要素は何か(あるいはそもそも,普遍的な要素はあるのか),逆に,言語はどこまで多様にことなりうるのかなどの問題を探求する研究分野です.この授業では,タイトルが示すとおり,世界の言語の類型論的な傾向にてらしたときの日本語の位置・特徴を考察し,ひるがえって、日本語研究によってえられる知見が,世界言語の類型論的研究にどのような洞察をもたらすか検討します.
 授業で利用するテキストは、ドイツのMax-Planck研究所が開発・管理する World Atlas of LanguageStructure(WALS) という言語類型論の研究者むけ書籍/データベースです.WALSは,言語の構造タイプ(類型)にかんする192の項目について,総数2697、平均400言語の情報を分類し,地図上にしめしたもので,インターネット上で公開されています.授業では毎回,2〜3名の受講者に,その回のテーマに関連したWALSの章の記述を要約して説明し、日本語のタイプ、特徴を検討する発表をおこなってもらいます.授業計画の末尾の数字は,予定している章番号です.また講師・吉田も各回の内容に関連した講義を行います.

授業計画

第1回 イントロダクション・「日本語特殊論」の根拠
授業の内容・進行について説明し、教科書とする WALSの内容も紹介します。日本語特殊論でよく引き合いに出される「動詞句が発話末にくる語順」がどれほど珍しいのか、から検討をはじめます。
第2回 類型論研究のデータ:語順(81, 82, 83)
前回につづき、主語・動詞・目的語の語順のタイプの検討をふかめ、類型論研究のための適切なデータ構築についてかんがえます。
第3回 言語類型間の関連(95, 96, 97)
複数の言語構造タイプどうしに関連があることが知られています。一例が、動詞・目的語の語順と、関係節と先行詞の語順との関連です。そのような関連の意味をかんがえます。
第4回 語彙構造の類型論(131, 132, 133, 138)
色彩語彙や数量語彙など語彙(の構造)にも、言語によってさまざまなタイプがあり、ヒトの認知のありかたとの関連で検討されることがあります(認知が言語構造を決めるのか,言語構造が認知を支配するのか,等)。そのような研究の経緯と問題点をかんがえます。
第5回 言語類型の変化:格組織(98, 99)
日本語には「主格」「目的格」などの「格」があり,「主格・対格」型の格組織をもつ言語の一つだといえます。これとはおおきくことなる「能格・絶対格」型という各組織のタイプを中心に、人類言語の文法構造の多様な可能性についてかんがえます。また,格組織の歴史的変化の可能性についても検討します。
第6回 「言語類型」とは何か:態(107, 108)
すべての言語に受動態があるとはかぎりません。また、「逆受動態」というふしぎな構造をもつ言語もあります。それらタイプの検討をとおして、「言語の類型」とはなにかをかんがえます。
第7回 人類言語の「普遍性」:関係節(122, 123)
日本語の「[友達が貸してくれた]ノート」は関係節構造でしょうか。西欧言語の物差しを強引にあてはめ、「これも関係節だ」とかんがえている可能性はないでしょうか。この問題の検討を軸に、「人類言語に共通の要素があるか(あるべきか)」という問題をかんがえます。
第8回 言語類型と社会のバイアス:文法的「性」(30, 31, 325)
スペイン語,ロシア語などを学んだ人は,「男性名詞」「女性名詞」などの区別に面食らったおぼえがあるのではないでしょうか。それは世界の言語にどのていどひろく見られるのでしょうか,社会にひそむバイアスとどのていど関連するのでしょうか,日本語には文法的「性」はありませんが,そのようなバイアスは「ない(小さい)社会」ということになるでしょうか,このような問題を考えるための基盤となる,言語類型論研究からの知見を検討します。
第9回 言語類型論と方言:テンス・アスペクト(65, 77, 78)
「日本語の特徴」というとき、われわれは方言にみられる多様性をわすれがちです。テンス・アスペクトのタイプを軸に、この問題を検討します。
第10回 言語類型と生活形態:親族名称(129, 130)
生活形態も言語類型に関連する可能性があります。親族名称のばあいはどうでしょうか。
第11回 単純 / 複雑な言語タイプ (1):形態論の類型と社会構造(20, 22)
古典的類型論の孤立語・膠着語・屈折語という形態論のタイプは、WALSで発展的に見直されていますが、このタイプが「言語人口」とかかわる、というデータがあります。どのようなメカニズムでこの両者が関係しうるのか、かんがえます。
第12回 単純 / 複雑なタイプ (2):音韻組織の類型(1, 2, 3)
日本語の音韻構造は比較的単純ですが、「(あらゆる点において)複雑な音韻構造をもつ言語」というものはあるのでしょうか。どれくらい複雑で、どんな特徴をもつ傾向があるのでしょうか。
第13回 日本語音韻の類型論的特徴(4, 7)
日本語は比較的単純な音韻構造をした言語といわれることがあります。日本語の歴史上ずっとそうなのでしょうか。日本語の音韻構造に特殊な点はないのでしょうか。日本語音韻の歴史的変遷も考慮に入れて検討します。
第14回 言語類型と地理(8, 9)
言語タイプと言語の地理的位置にも関連がある可能性が指摘されてはじめています。よく言われる「寒い地域は口をあまり開かないので...」というものなどです。どのていど信頼できる主張なのか、検討します。
第15回 韻律の類型論(12, 13)・まとめ:日本語は特殊な言語か
担当教員・吉田の専門である、言語の韻律のタイプについてかんがえます。世界の類型論研究にたいする日本語研究からの貢献を紹介します。また,全15回の内容をふりかえり,世界の言語の傾向とくらべて,日本語は特殊な言語といえるか,それとも平凡な言語なのか,という問題を再考します。