異文化接触と日本文化

基本情報

科目名
異文化接触と日本文化
副題
仏像、海を渡る
授業タイプ
講義科目
担当教員
楢山満照
曜日
木曜日
時限
4時限
授業シラバス
[シラバスへのリンク]

授業概要

 近年、巷では、にわかに仏像ブームがきているとのこと。ひょっとするとそれは、ゆるキャラやフィギュアが現代的な文化現象として市民権を獲得してきたことと連動しているのかもしれません。その是非はともかく、祈りの心を受け止めてくれる信仰の対象、という本来の宗教的な枠にとらわれず、自由な感覚で自分好みの仏像を探そうという人が増えてきているのは事実であるように見受けられます。
 本科目では、そうした現象を自他の文化理解を考察するための格好の題材ととらえ、仏像という立体彫刻に焦点を当てながら、アジアを舞台とした異文化の接触と交流の様相をみていきます。日本人にとって、仏教は本来、異国の宗教でした。当然、日本で定着するまでには、他の宗教との衝突もあったはずです。そこで、「そもそも誰が最初に仏像をつくったのか?」、「日本にしかない仏像はあるのか?」、「キリスト像との影響関係は?」、「仏像をフィギュアや美術品と考えるのは不謹慎なのか?」など、いくつかのトピックを設け、受講生とともにその問いについて考えながら、実践的な他者理解の思考を養っていきます。

授業計画

第1回 ガイダンス
本科目の目的、進め方のほか、仏像という偶像の特質について説明します。
第2回 仏像の枠組みを知る その1
異文化接触の具体例として仏像の展開を考えていく際に一つの壁になるのは、仏像の種類が多く、その違いを理解するのが困難なことにあるように思われます。そこで、まず様々な尊格が存在する仏像の枠組みやそれぞれの役割について解説し、何か深遠な仏教哲理が分からなければ理解できないイメージを持たれることもある仏像に関して、受講生に入口を提示します。
第3回 仏像の枠組みを知る その2
前回に引き続き、仏像の枠組みやそれぞれの役割について解説します。
第4回 仏像の枠組みを知る その3
前回に引き続き、仏像の枠組みやそれぞれの役割について解説します。
第5回 神は可視か不可視か
神は可視的な存在であるのか、あるいは不可視であるのか。この問いは、古今東西、様々な芸術や宗教において議論されてきました。この回では、いくつかの宗教美術における表現を比較しながら、日本の宗教観とその図像表現に影響を与えた要素を抽出していきます。
第6回 仏像の誕生
仏像という立体彫刻は、いつ、どこで、どのようなきっかけでつくられることになったのか。その経緯を追うことで、仏像は誕生そのものが異文化接触の産物であったことを説明します。
第7回 誰が最初に仏像をつくった?
前回の内容を引き継ぎ、この回では、史上初めて仏像がつくられたときの伝説を検証します。あわせて、京都清凉寺の釈迦像を題材として、日本人にとっての「三国伝来」という権威について説明します。
第8回 三蔵法師の旅と檀像という権威
西遊記の登場人物として知られている三蔵法師玄奘。この回では、インドを目指した三蔵法師の旅を紹介しながら、檀像という特殊な木彫像と、日本におけるその受容と展開について説明します。
第9回 朝鮮半島から渡る人、モノ、技術
6世紀、ついに仏教が日本に伝わります。当時、仏教は宗教という枠を超えた高度な一大文化そのものでした。その時、金色に輝く仏像をみて日本人は何を思ったのか、この回では、その際のカルチャーショックを復元していきます。
第10回 仏像と日本の神との出会い
平安時代から鎌倉時代にかけてつくられた日本の神像彫刻や、「鉈彫り」とよばれる特殊な木彫像を題材として、仏像と日本の神との間でみられた衝突、相互理解の様相について説明します。
第11回 神仏習合と神道の美術
前回の内容を引き継ぎ、この回では、日本にしかない特殊な仏像に着目しながら、日本人にとっての「かみ」とは何なのか、その表現について検討していきます。
第12回 仏像とミイラの比較文化史
この回では、ミイラづくりを介した異文化の接触と融合の歴史を追いながら、仏像とミイラの関係性について検討していきます。紀元前から中国ではミイラづくりが着々とおこなわれていました。その伝統の流れに位置づけられる中国唐代のミイラ仏と、日本の江戸時代の即身仏について説明します。
第13回 仏像とキリスト像の比較文化史
おそらく世界中の誰もが容易にイメージできるキリストのお姿。この回では、仏像とキリスト像、両者の違いと共通点を探ることで、仏像の特殊性を浮き彫りにしていきます。
第14回 文化財流出の是非を考える
2008年、ここ日本において、ひとつの文化財をめぐってある騒動がおこりました。鎌倉時代に活躍した仏師・運慶の作と思われる仏像が海外のオークションで競売にかけられることになったのです。すると日本では、大手新聞メディアを巻き込んで、海外流出を防いで欲しいという論調がにわかに巻き起こり、1万3000人分の署名が文化庁に提出されました(おそらくそのうちのほとんどの人は、その仏像を見たこともない)。この回では、このエピソードを紹介しながら、日本における「美術鎖国的意識」について受講生とともに考えていきます。
第15回 理解度の確認
授業時間中にテストを実施し、理解度の確認をおこないます。あわせて解説もおこないます。