比較文学の方法 (休講)

基本情報

科目名
比較文学の方法 (休講)
副題
「テレビドラマ」と「文学」のクロス
授業タイプ
講義科目
担当教員
柿谷浩一
曜日
金曜日
時限
4時限
授業シラバス
[シラバスへのリンク]

授業概要

※2020年度秋学期は休講となりました


 テレビドラマと文学は、異なるジャンルで別物のように思うかもしれません。ですが実際には、両者は密接につながり重なり合う形で、多様な関わり方をしています。毎クールほぼ必ず、漫画と並んで小説原作による「ドラマ化」が展開され、その中には海外の名作や古典文学をもとにした「翻案作品」も多く作られています。また話題作では「ノベライズ」が創作されることも珍しくありませんし、近年ではドラマの「脚本(シナリオ)」が活字で読めるよう刊行・公開されることも以前よりも増えて、それらを戯曲と同様にして愉しむあり方も広まってきました。あるいは、映像の中に特定の文学作品(の一節)や作家がモチーフとして登場する作品のほか、書籍・編集・書店といった文学周辺の事象を扱った作品にも、改めて注目が集まっています。ドラマなどを舞台に活躍する役者が書いた「エッセイ」や「自伝」などのも、広義の文学の一つとして捉えて読むこともできます。 比較文学というと、どうしても文学間の“影響”や“違い”を研究するものというイメージが強いと思いますが、そうした「受容・影響研究」以外にも、“国・文化・言語の越境”めぐる諸問題の考察や、文学という枠からこえて隣接・関連するジャンルにも目を向ける“クロスジャンル”分析も、重要かつ主要な研究方法の1つです。この講義では、そうした比較文学の基礎的な方法論・視点・課題などを、〈文学とテレビドラマ〉を対象にして、検証・整理をしていきます。
 この数年、「愛の諸相」という講義で、現代の恋愛ドラマにおける“胸キュン”について考察を続けてきました。その成果を踏まえ、そこで深めた課題にも接続しながら考えていく意味でも、授業はテレビドラマの側に立って進めていく方針をとります。その点では、文学(研究)だけではなくて、テレビドラマはもちろん、広く映像文化や視覚芸術について考えたい人にもマッチした内容になるでしょう。いわゆる比較文学入門のような概説というよりは、実際の映像分析を軸に「比較文学的な問題」を見出し、問題提起する形で、基礎知識もおさえていくような講義イメージです。その中で、比較文学の根幹にある「文学とは何か」、あるいは「テレビドラマとは何か」、更には「テレビドラマにとって文学はどんな位置にあるか」といった大きな問いも、受講生と一緒に考えていければと思っています。

 ●研究対象は、出来るだけあまり古くないところで、話題を呼んだ現代ドラマから取り上げていく予定です。候補としては、『シャーロック』(主演=ディーン・フジオカ、2019)、『貴族探偵』(主演=相葉雅紀、2017)、『偽装不倫』(主演=杏、同)、『アルジャーノンに花束を』(主演=山下智久、2015/ユースケ・サンタマリア、2002)、『空飛ぶ広報室』(主演=新垣結衣、2013)、『野ブタ。をプロデュース』(主演=亀梨和也・山下智久、2005)、『愛し君へ』(主演=菅野美穂・藤木直人、2004)、『池袋ウエストゲートパーク』(主演=長瀬智也、2000)等を考えています。下記の授業計画も参照下さい(春に更新予定です)。

 ●講義冒頭の数回は、私の自己紹介と「文学(研究)とテレビドラマ(論)」を考えるための導入として、テレビドラマを“文学的”に捉える担当教員なりの視点・方法を紹介するため、数作品のテレビドラマ論から始めることにします。

 「授業方針」について、少し触れておきます。
 先にも書いた通り、比較文学の考え方や基礎知識をひたすら教科書的に学ぶのではなく、現代のドラマ作品を実際に検証しながら、私なりの視点と方法で、作品を相手に分析・解釈しつつ、問題を独自に浮かび上がらせることを大事にしたいと考えます。時に失敗もあるかもしれませんが、臆することなく、毎回毎回、作品とシーンに挑んでいく「文化構想学部」らしい、「複合文化論系」らしい実践の場を作れたらと願っています。解説や考察を漫然と聞くのではなく、受講生の皆さんも、一緒にあれこれ積極的に考えることを期待します。そして、時には「それは違うのではないか」、「私ならこう考える」、「最新の現状からみるとこうではないか」といった反応=反論を、リアクションペーパーを通して、ぶつけてほしいと思います。もちろん、専門的な質問もたくさんぶつけて下さい。皆さんの疑問、面白い見方や授業と異なる解釈も、折にふれて紹介していきたいと思っています。
 15回の授業の中で「比較文学」とはどんなものであるかが、単に“比べる”という次元を越えて、どれだけ広がりがあるものかを確認し、それが諸芸術・ジャンルと深く関係しているかを理解してもらえたら、この講義はまずは成功です。意欲ある学生と出会えるのを心待ちにしています。

授業計画

第1回
オリエンテーション+序論「なぜ比較文学が必要か」
第2回
導入① テレビドラマを観る視点・感性を点検する :月9『SUMMER NUDE』の文学的想像力
第3回
導入② テレビドラマを観る視点・感性を点検する、もう一回 :“胸キュン”ドラマで「胸キュン」する理由ーー『初めて恋をした日に読む話』を中心に
第4回
海外文学のテレビドラマ化と翻案① :新しい『シャーロック』の魅力とディーン・フジオカへの視座(マルチリンガルとクロスエリアの諸問題)
第5回
海外文学のテレビドラマ化と翻案② :『アルジャーノンに花束を』の文学/映像のリアリズム(翻訳とメディア変換の諸問題)
第6回
「原作」のテクスト学① :『空飛ぶ広報室』の異同・変更を読みとく
第7回
「原作」のテクスト学② :『貴族探偵』の異同・変更を読みとく
第8回
「原作」のテクスト学③ :『野ブタ。をプロデュース』の草野彰が生まれて、2020年“亀と山P”が存在するということ……
第9回
戯曲としてのドラマ脚本 :坂元裕二と「手紙」、あるいは『いつかこの恋を思い出して泣いてしまう』のシナリオ特性
第10回
「ノベライズ」という文学 :大ヒットと小説化の相関にみる「読後」の比較論 ーー『コード・ブルー』は文学でも再現できたか?
第11回
同時代のドラマと文学 :『池袋ウエストゲートパーク』の空間学と言語学
第12回
テレビドラマの中の宮沢賢治 :『偽装不倫』のファンタジーとポエジー
第13回
テレビドラマと詩(学) :『愛し君へ』ーー“死”としての写真・活字・書籍
第14回
フィクションとしての読書体験と文庫本 :『俺の話は長い』の満(生田斗真)はただ屁理屈を重ねているだけじゃなくて、ある種、話芸の域にも達したその饒舌な語りの背後には、誰からも携帯も鳴らない孤独ゆえの豊潤な読書体験と思索があって、それを体現しているのが、1人丸まるように精読する“文庫本”で、それは物語に重要なキーとなっている牧本の古本屋と繋がっていて……
第15回
まとめ or ゲスト講師回