異文化の伝播と受容

基本情報

科目名
異文化の伝播と受容
副題
グローバル化と東アジア美術コレクションの形成
授業タイプ
講義科目
担当教員
楢山満照
曜日
水曜日
時限
3時限
教室
未定(対面)
授業シラバス
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授業概要

アメリカやヨーロッパで美術館に立ち寄ると、思いもよらず日本や中国の美術品の充実したコレクションを目にする、ということがあります。こうしたコレクションの核となる作品の多くは19世紀後半から20世紀初頭にかけて蒐集されたもので、その背景には、東アジアを取り巻いていた緊迫した政治情勢のほか、運輸システムと情報ネットワークのグローバル化がありました。
 ただし、オリエンタルでエキゾチックなものを求める欧米人の蒐集欲を、図像と漢字から構成されるシンボリックな東アジアの美術品が満たしていた、と単純に解釈することはできません。というのも、興味深いことに、同じ時期にここ日本でも、自国の文化の母胎である中国の美術品をコレクションする現象がみられたからです。とすると、東アジアの美術品の伝播は世界規模でおこなわれていたことになり、それをコレクションすることは何を目的とした行為であったのか、とりわけ、中国の伝統を受容してそれを理解することは何を意味していたのでしょうか。さらに、文化の基盤が異なる欧米と日本とでは、コレクションの内容と形成過程、そして思惑に違いがあったと想定されます。
 東洋や西洋といった各文化圏の枠組みが曖昧になり、世界の距離が目まぐるしい速さで縮まってきている昨今、過去に世界規模で起きた東アジア美術コレクションの形成過程をグローバル化という視点から分析することは、多様な文化が複合的に重なり合い構成される現代の文化をあらためて考え直すためのひとつの題材になるはずです。

授業計画

1:
第1回 ガイダンス
本科目の目的、進め方のほか、本科目の話題の核となる中国歴代皇帝の故宮コレクションの概要について説明します。
2:
第2回 故宮コレクションの形成と流転
北京と台北に分散して収蔵されている故宮コレクション。この回では、二つの故宮コレクションが形成された経緯と、その一部が世界各地に流出した背景について解説します。
3:
第3回 乾隆帝とハンコ
名品といわれるような中国美術の作品には、なぜあれほど沢山のハンコが捺されているのか。この回では、乾隆帝(在位1735~1795)とハンコとの関係に注目して、中国美術を取り巻いてきた特異な歴史的状況について解説します。
4:
第4回 乾隆帝と円明園
この回では、乾隆帝が造営した円明園の西洋楼を特集し、大きくゆらいだ乾隆帝のアイデンティティーと「皇帝としての務め」について解説します。
5:
第5回 徽宗と芸術 その1
芸術をこよなく愛した「風流天子」こと徽宗(在位1100~1125)。この回では、徽宗の思惑を分析しながら、中国における芸術と政治の接点について検討します。
6:
第6回 徽宗と芸術 その2
前回に引き続き、徽宗を特集します。この回では、徽宗が具体的に政治の場でどのように芸術を活用しようとしたのか、その様子を見ていきます。
7:
第7回 徽宗と芸術 その3
前回に引き続き、徽宗を特集します。この回では特に都市景観図と山水画に着目し、その機能について考えます。
8:
第8回 東山御物の政治性 工芸編 その1
室町時代に足利将軍家が蒐集した中国伝来の唐物(からもの)を東山御物といいます。この回では、東山御物の内容を確認しながら、何を目的として、どのような基準でこのコレクションが形成されたのか、その経緯についてみていきます。
9:
第9回 東山御物の政治性 工芸編 その2
この回では、東山御物に含まれる工芸作品、特に天目碗などの茶器を題材として、中国とは異なる日本ならではの価値づけや、日本における芸術と政治の接点について検討します。
10:
第10回 東山御物の政治性 絵画編 その1
東山御物に含まれる中国絵画作品を特集します。日本美術にとっての「古典」として君臨し続けてきた東山御物の大半が、「唐物」すなわち中国美術の作品によって構成されている点は、東アジアにおける文化的コミュニケーションの実例としても大いに注目されます。この回では、東山御物に含まれる絵画作品の構成に関して、その特徴を見ていきます。
11:
第11回 東山御物の政治性 絵画編 その2
前回に引き続き、東山御物の絵画を特集します。この回では、芸術鑑賞において、どのような経緯で日本化された美意識が芽生え、具体的にどのように中国絵画を再編していったのか、その様子を見ていきます。
12:
第12回 絵画の切断と模倣
現代の感覚では理解が難しいかもしれませんが、かつての日本では様々な理由から、名品と言われるような絵画作品でも切断したり、それにアレンジを加えたり、コピー作品を積極的に作ったりしていました。この回では、そうした行為の背景にあった歴史的な要因について検討していきます。
13:
第13回 絵画にみる「日本らしさ」とは何か
「わび・さび」といえば、古びていて、それでいて渋みのある閑寂の趣のこと。クール・ジャパンの代名詞の一つともいえるこのセンスは日本の茶道で重んじられてきた表現美ですが、美術における「日本らしさ」は、決してそれに限定されません。日本と盛んに交易をおこなっていた中世の中国は、経済的にも文化的にも大国でした。では、大国中国の貴人たちは何に「日本らしさ」を感じていたのか。この回では、文献資料をもとに「海外から見た日本らしさ」について検討していきます。
14:
第14回 欧米における東アジア美術コレクションの形成 その1
ボストン美術館のコレクションの形成過程と、岡倉天心の活動についてみていきます。
15:
第15回 欧米における東アジア美術コレクションの形成 その2
フリーア美術館のコレクションの形成過程についてみていきます。