世界の言語と日本語

基本情報

科目名
世界の言語と日本語
副題
言語類型論からみた日本語
授業タイプ
講義科目
担当教員
吉田健二
曜日
木曜日
時限
3時限
教室
未定(対面)
授業シラバス
[シラバスへのリンク]

授業概要

 言語類型論(Linguistic Typology)は、世界の言語の特徴をできるかぎりひろくしらべ、ヒトの言語にとって普遍的な要素はなにか(普遍的な要素はあるのか)、言語はどこまで多様に異なりうるのかなどの問題を探求する研究分野です。この授業では、世界の言語の類型論的な傾向にてらしたときの日本語の位置・特徴を考察し、さらに、日本語研究からえられる知見が、ヒトの言語の研究一般にどのような洞察をもたらすかも検討します。
 使用するテキストは、ドイツのMax-Planck研究所のWorld Atlas of Language Structure Online(WALS Online)という言語類型論の研究者むけオンライン書籍/データベース(英文)です。WALSは、言語の構造タイプ(類型)にかんする144の項目について、総数2697、平均約400言語の情報を分類し、地図上にしめしたもので、インターネット上で公開されています。授業計画の数字は予定している章番号です。各回、この内容に関連した講義と討議を行います。

授業計画

第1回 イントロダクション・「日本語特殊論」の検証(WALS Ch.81)
授業の内容・進行について説明し、教科書 WALS Onlineの利用のしかたを紹介します。さらに、日本語特殊論でよく引き合いに出される「動詞が文末にくる語順」がどれほど珍しいのか検討します。

第2回 類型論研究のためのデータ:語順(82、83)
前回につづき、語順タイプの検討を発展させ、類型論研究のデータについてかんがえます。語順タイプの歴史的変化の方向性や接触による類型の変化についても検討し、言語類型を固定したものとかんがえないことの重要性も学びます。

第3回 言語類型間の関連(95、96、97)
複数の言語構造タイプに関連があることが知られています。たとえばある言語が「動詞-目的語」という語順をもつばあい、「先行詞-関係節」という語順になることが多いという傾向があります。なぜそのような関連が生ずるのか、理由や研究上の意義などをかんがえます。

第4回 語彙構造の類型論(131、132、133、138)
色彩語彙や数詞など語彙(構造)にも言語によってさまざまなタイプがあり、ヒトの認知との関連で検討されています(認知が言語構造を決めるのか、言語構造が認知を決定づけるのか、等)。そのような研究の経緯と問題点をかんがえます。

第5回 言語類型の多様性と変化:格組織(98、99)
日本語には「主格」「目的格」などの「格」があり、「主格・対格」型言語の一つだといえます。これとおおきくことなる「能格・絶対格」型という格組織のタイプを中心に、人類言語の文法構造の多様な可能性についてかんがえます。また、格組織の歴史的変化の可能性についても検討します。

第6回 「言語類型」とは何か:態(107、108)
すべての言語に受動態があるとはかぎりません。「逆受動態」というふしぎな構造をもつ言語もあります。それらタイプの検討をとおして、「言語の類型」とはなにかをかんがえます。

第7回 人類言語の「普遍項」:関係節(122、123)
日本語の「[友達が貸してくれた]ノート」は関係節構造でしょうか。西欧言語の構造を基準に、かたよった判断をしている可能性はないでしょうか。この検討を軸に、「人類言語に共通の(普遍な)要素はあるか」という問題をかんがえます。

第8回 言語類型と社会のバイアス:文法的「性」(30、31、32)
ドイツ語・ロシア語などを学んだ人は、「男性名詞・女性名詞」などの区別に面食らったおぼえがあるのではないでしょうか。それは世界の言語にひろくみられるのでしょうか、社会に存在するバイアス(このばあいジェンダーバイアス)に影響することはあるでしょうか、言語学の側面からこの問題を検討します。

第9回 言語類型と社会構造:親族名称(129、130)
社会の構造(集団のありかた・財産の継承など)も言語タイプに関連する可能性が主張されています。親族名称を中心に考察します。

第10回 単純 / 複雑な言語タイプ:形態論の類型と社会構造(20、22)
古典的言語類型論の「孤立語・膠着語・屈折語」という形態論タイプは、近年の研究で発展的に見直されています。その言語構造のタイプが「言語人口」の多寡とかかわるという研究をとおして、ことばを話す集団の性質と言語構造タイプとの関係についても検討します。

第11回 言語タイプと言語の運用:冠詞(37、38)
日本語にはいわゆる「冠詞」がなく、外国語学習における困難の一つとされます。では、冠詞のもつ機能をはたすような言語構造は日本語にはないのでしょうか。この検討をとおして言語タイプと言語運用との関係をかんがえます。

第12回 日本語音韻の類型論的特徴(1、2、3、4、7)
日本語は比較的単純な音韻構造をもつ言語ですが、日本語の音韻構造に特殊な点はないのでしょうか。日本語音韻の歴史的変遷も考慮に入れて検討します。

第13回 言語類型と環境(8、 9)
言語タイプと言語の地理的位置・気候などの環境にも関連がある可能性が指摘されています。「寒い地域は口をあまり開かないで話す」などです。どこまで信頼できる主張なのか、関連があるとしたら何がその原因なのか、などを検討します。

第14回 韻律の類型論(12、 13)・まとめ:日本語は特殊な言語か
担当教員の専門である、言語の韻律タイプについてかんがえ、世界の類型論研究にたいする日本語研究からの貢献を紹介します。また、全14回の内容をふりかえり、世界の言語の傾向とくらべて、日本語は特殊な言語といえるのか、それとも平凡な言語なのか、という問題について再考します。