古代美術の様式とイコノグラフィー

基本情報

科目名
古代美術の様式とイコノグラフィー
授業タイプ
講義科目
担当教員
竹野内恵太
曜日
木曜日
時限
4時限
教室
未定(対面)
授業シラバス
[シラバスへのリンク]

授業概要

 絵画や彫刻作品など美術の様式性と意味内容はそれらを生み出した社会と思想的背景を読み解くための重要な文化要素となるが、それは古代社会においても同様である(本講義で対象とする古代美術とは中世の初期キリスト教美術より以前のものを指す)。例えば壁画や彫像に見られる人物・動物・神々・自然の表現、図像の配置構成や規格性、象徴性からは、美術の様式性だけでなく、当時の宗教思想や宇宙観、あるいは生活世界をも垣間見ることができる。また、図像上の人物の顔立ちや姿、身に纏った衣服、装身具にはその社会の文化習慣や美的価値観・感性、自己と他者との差別化などアイデンティティの側面も表れる。また、数千年の歴史の中で美術はそのときどきの社会と文化を背にして変容・発展してきた。一方で、古代美術は近現代アートとは作成の動機が大きく異なるし、わたしたちの社会と文化の価値観や枠組みだけで理解することは難しい。それゆえ、古代美術を通して当時の人々の思想・価値観や文化の在り方を学ぶことは、文化的な多様性や、自文化と他文化との違いを理解することにつながるだろう。そこで、本講義では、美術様式に反映された古代人の価値観・思想体系などの文化構造、美術の一つの源流たる古代オリエント美術の歴史性などについて見ていき、古代美術の世界へ招待する。

授業では基本的に以下の通りに進行します。(回に応じて変更あり)
・導入と授業の流れの提示(5分)
・講義(85分)
・講義の間、その内容を振り返る時間を2度設けます(計10分)。

授業計画

1:
第1回 ガイダンス:古代オリエント美術の見方とイコノグラフィー
本授業のガイダンスとして、講義の概要と目的、方向性、評価方法などについて説明する。授業で対象とする古代美術の時空間的な範囲と古代史および西洋美術史におけるその位置づけについても若干触れる。
2:
第2回 「アート」の起源?:人類初期の造形美術の誕生と古代美術の形成
ネアンデルタールおよびホモサピエンスが残した洞窟壁画や幾何学文様、アフリカおよび西アジア地域の新石器時代の原始美術の内容について紹介する。
3:
第3回 古代エジプトの美術様式1:その主題と原理、世界観・宗教観の表出
古代エジプト文明史を概説したのち、当該文明が残した壁画や彫像、副葬品などの媒体の種類と特徴、そして描かれた美術表現の代表的な主題・テーマを当時の宗教性や信仰体系との関係とともに見ていく。
4:
第4回 古代エジプトの美術様式2:壁画における様々な場面構成とその象徴的な意味体系
古代エジプトの壁画には、供物を神や被葬者へ提示する儀礼の様子、自然環境の動植物の表現、農耕や狩猟、漁労、製品製作といった日常的な様子など、さまざまな場面が描かれた。それらの場面構成とそれが意味する象徴性を見ていくことで、当時の人々がもっていた宗教性や思想体系、価値基準に触れる。
5:
第5回 古代エジプトの美術様式3:衣服と装身具、人物表現からみた身分、ジェンダー、アイデンティティー
壁画や彫像に見られる人物や神々の衣服および装身具の種類は、それによって古代人が自身たちの社会的身分やジェンダー、アイデンティティを表現する手段の一つであった。彼ら/彼女らが自らをどのように認識・表現し、社会の中に位置づけ、そして自己と他者を差異づけていたかを理解する。
6:
第6回 古代エジプトの美術様式4:壁画製作の方法・素材と職人集団について
古代の壁画はどのような人々がどのように描いたのか。壁画に残る製作工程の痕跡や習作・落書きなどから、彼ら職人集団の組織構成や壁画製作の方法とプロセスなどについて古代美術の「技術的」な側面を中心に解説する。
7:
第7回 古代エジプトの美術様式5:地域文化と美術様式の変容・解体
美術様式は在地社会における社会的な変容や思想・宗教性の変化によっても変わる。古代エジプト史において社会構造が大きく揺れ動いた時期において、美術様式のような文化的側面はまたどのような影響を受けたのか見ていく。
8:
第8回 古代メソポタミアの美術様式1:シュメール美術・アッカド美術
前期青銅器時代から中期青銅器時代のメソポタミア地域では、神殿を中心とする都市国家が形成・発展する。その社会変化と明確な王権の形成とともに、美術様式もまた宗教的・政治的なメッセージを伝える媒体として発達していく。本講義では、古代メソポタミア初期社会の美術様式とその特徴、象徴性などを説明する。
9:
第9回 古代メソポタミアの美術様式2:バビロニア美術・アッシリア美術
後期青銅器時代から鉄器時代のメソポタミアでは様々な地域の交流が著しく盛んになっていく。そのような「国際化」する社会において、メソポタミア各地の美術様式はまたどのような姿で、いかなる変化を見せるのか。
10:
第10回 古代メソポタミアの美術様式3:ペルシア美術とその後
広大な版図を有したアケメネス朝ペルシアでは、多様な在地文化の要素を吸収しながら、複合的な美術様式を形成した。また、ギリシアの文化と美術が東方世界へ拡大するヘレニズム時代においてはメソポタミアの美術様式も大きな影響を受けつつ、さらに在地文化へ取り込むことで新しい展開を見せていく。本講義では、さまざまな文化要素が複雑に入り組んだ美術様式や図像表現の文化複合的な側面を紹介する。
11:
第11回 地中海世界の古代美術1:クレタ美術・ミケーネ美術
地中海、特にエーゲ海地域の宮殿時代では各地域で都市国家が発展・成立し、豪華な壁画装飾や工芸品にみるように宮廷文化が栄えた。クノッソス宮殿を代表するように、特にこの繁栄した宮殿建築における美術様式の特徴とその変化を見ていく。
12:
第12回 地中海世界の古代美術2:ギリシア美術
古代ギリシアの美術は、その様式性だけでなく、人間・人体の表現や装飾技法といった技術的な側面などにおいても各地域や後代にその影響を与え続けた。講義ではその始まりである幾何学時代から、ギリシア美術が隆盛を極めるアルカイックおよびクラシック時代、そしてギリシア世界が拡大するヘレニズム時代までの美術様式の特徴を説明するとともに、その歴史を辿る。
13:
第13回 異文化交流とその美術様式への影響について
古代オリエントおよび地中海世界の広大な地域では各国が数千年の歴史の中でたびたび接触・交流してきた。本講義では、特に異文化交流と文化的複合という視点から古代美術を見ていくことで、外部地域の文化や思想、宗教の到来と受容のあり方を、特に古代エジプト美術から説明する。
14:
第14回 授業まとめ
これまでの講義内容を振り返り、総括する。