複合文化論系演習(国民文学から世界文学へ)

基本情報

科目名
複合文化論系演習(国民文学から世界文学へ)
副題
TM NETWORKを〈読み=聴き〉直す ― 「1984→94年」文化マップを作りながら
プログラム
異文化接触
授業タイプ
演習
担当教員
柿谷浩一、教員
曜日
金曜日
時限
6時限
教室
33-439
授業シラバス
[シラバスへのリンク]

授業概要

1995年を日本の現代文化の転回点とみる論考や批評は少なくありません。しかし、本当に大事なのは「1994年」(この視点から仮に10年単位で文化を捉えるならば、1984年が重要になってくることになります。数字的に区切りのよい1980年でも1985年でもなくて、1984年が……)ではないか、と私は考え続けています。そうした思考の一端にあって、避けて通れない文化現象のひとつこそ、TM NETWORKに他なりません。
 1994年――。
 80年代から長く邦楽のヒットチャートを賑わせ、Jポップを牽引、拡張し、国民的人気を博してきたといってもよいグループTM NETWORK(TMN)が「プロジェクト終了(解散)」を発表します。小室哲哉、宇都宮隆、木根尚登の三人からなるTM NETWORKがデビューしたのは1984年。それは奇しくも、あるいは文化の必然というべきでしょうか……シンセサイザーとコンピューターを用いたテクノポップを開拓した、坂本龍一率いるYMOが「散開(解散)」した翌年のことでした。
 TMは「Time Machine(タイムマシン)」の略で、近未来(あるいは宇宙)からやってきた三人組というのが当時のコンセプト。のちの小室哲哉の言葉によると、それは「究極のフィクション・プロジェクト」だったといいます。このフィクションというのが勘所でしょう。それが決して現実ではないと分かっていても、そこにある想像力やイメージで何かを伝えてゆく、何かを変えてゆこうとする。そうした《物語》の力、もっといえば《文学》的なるものが、彼らの活動と表現の基盤にあったのでした。しかも、その物語/文学性は、(文学のみならず)世界の様々な芸術作品や文化事象に連絡していた点は見逃せません。中でも、SF小説との関わりは初期作品から特に際立っていました。
 有名な所でいえば、2ndアルバム『CHILDHOOD’S END』のタイトルは、アーサー・C・クラークの代表作『幼年期の終わり』から採られていましたし、収録曲「永遠のパスポート」もJ・G・バラードの小説名に由来していました。他にも、キューブリックの映画『時計じかけのオレンジ』を想起させる「ELECTRIC PROPHET(電気じかけの預言者)」や、ビートルズやプリンスといった海外のミュージシャンからの引用等……、意識的に作品の中に無数の《世界文学/文化への接点》が散りばめられていました。
 そうした成果のひとつといえるのが、6thアルバム『CAROL~A DAY IN A GIRL'S LIFE 1991~』でしょう。ひとりの少女が世界の音を守るために闘う、というスケールの大きいその《物語》は、ルイス・キャロルの「不思議の国のアリス」を下敷きにしているだけでなく、西洋の叙事詩や神話、さらにはイギリス演劇もふまえて作られていたと考えられます(実際、制作時に小室哲哉はロンドンに渡ってもいました)。今では当たり前となった、アニメや小説とのメディアミックス、あるいは演劇的な要素を入れ込んだライブ演出も含めて、この作品は単なる音楽的な実験に留まらず、《世界=海外》の(言語を中心とする)芸術様式や手法を、積極的に摂取した文化現象として再評価できるはずです。
 本演習では、TM NETWORKの作品(歌詞はもちろん重要な位置を占めることになるでしょう)、《物語》や《文学》の観点で捉え返しつつ、そこに見られる《日本/世界》を往還する、異文化間の接触・引用・対話・葛藤を多角的に発見し、検証して行きます。単に日本のJポップ、ポップカルチャーの一コマとしてではなく、世界の芸術へと接続していた、いわば異文化事象としてのTM NETWORK(の可能性)について、受講生の皆さんと一緒にあれこれ考えてみます。
 1994年の「プロジェクト終了」が、必要と考え実践してきた《フィクション》が一定の役割を果たし得た瞬間だとするならば、彼らが1980年代の日本にあえて、世界文学に連関する形で、宇宙的かつSF的な《物語》《文学》を導入した(しなければならなかった)その意味、その本質とはどのようなものだったのでしょうか。デビュー時から順に主要作を《読み=聴き》直しながら、説得力のあるさまざまな「解釈」に皆さんと辿りつけたらと思っています。そして、その作業の過程から、受講生各自が80~90年代の日本文化全般に対しても、新たな驚きや着想点を見つけ、独自の「文化マップ」を描き出してくれたらと願ってもいます。
 【授業の具体的な進め方】
 ●受講人数にもよりますが、1人30分程度の個人発表(プレゼンテーション)を軸とします。それを受けて、毎回、受講者全員でディスカッションを行います。
 ●発表内容については、あまり制限を設けず自由にしたいと思いますが、上記の問題意識を踏まえていること、また本演習のテーマに掲げられている《文学》(あるいは《文学》的なもの)に必ず何か少しでも触れることを条件にします。その中であれば、世界のSF作家・作品との関連、作家・小室みつ子の歌詞世界における「世界(全世界+宇宙)」の描き方、関わりが指摘されてこなかった同時代の日本/世界文学(広くミュージシャンの歌詞も含む)との比較等、自在に問題提起や報告をしてもらって構いません。あらためて演習内でふれますが、個人的には日本現代文学の中で、高橋源一郎や村上龍、筒井康隆、栗本薫あたりとの相同も十分検討に値するだけのものがあると考えていたりもします。
 ●発表者には、事前に内容を予告してもらうスタイルをとります。ですので、他の受講者は、毎回、扱う予定のCDや小説を予習してくることは欠かさないで下さい。
 ●講義回以外は、私もディスカッションの参加者のひとりです。日本文学・文化、ポップカルチャーの専門から発表に対してコメントはもちろんしますが、それ以降は「先生」というよりは、一緒に考える「仲間」でいたいというのが願いです。活発に、対等に、対話をし合えたら素敵じゃないですか。
 最後にくどいかもしれませんが、確認です。考察対象はミュージシャンですが、けっして音楽論の授業ではありません。あくまで《文学》的問題としてミュージシャンとその現象を考えてみる。そして、日本の国内で人気があったというレベルから、「世界」をキーワードに、しっかりと彼らの作品を《文化的》に再評価してみる段階へと持っていく。これが本演習の基本的姿勢と方針であることを確認して、履修をして下さいね。
 まずは、彼らのデビュー作「金曜日のライオン」について、あえて日本から遠く離れたアフリカ・ジャングルを歌うところから活動・表現をスタートした意味について、まさしく「金曜」の夜に、ゆっくり考えるところからスタートしてみましょう。

授業計画

1:
第1回
オリエンテーション+導入講義: 【異文化事象としてのTM NETWORK~『KISS YOU』分析】

2:
第2回
個人発表(①ターン)

3:
第3回
個人発表(②ターン)

4:
第4回
個人発表(③ターン)

5:
第5回
講義:【『CAROL』の文学性 ― イギリスで作られた物語の日本への影響を中心に】

6:
第6回
個人発表(④ターン)

7:
第7回
個人発表(⑤ターン)

8:
第8回
個人発表(⑥ターン)

9:
第9回

講義:【TM NETWORKにおける「ユニバース」の思想 ― 世界へ、宇宙へ】


10:
第10回
個人発表(⑦ターン)

11:
第11回
個人発表(⑧ターン)

12:
第12回
個人発表(⑨ターン)

13:
第13回

講義:【SF作品/現代文学史からみるTM NETWORK】


14:
第14回
個人発表(予備日)

15:
第15回
まとめ+打ち上げ