翻訳とその諸問題

基本情報

科目名
翻訳とその諸問題
副題
日本児童文学界における外国文学作品(主にロシア文学)の翻訳をめぐって
授業タイプ
講義科目
担当教員
南平かおり
曜日
金曜日
時限
5時限
授業シラバス
[シラバスへのリンク]

授業概要

 本授業では、「日本児童文学界における外国文学翻訳作品」の諸問題について取り上げる。
 日本の児童文学界の中で「翻訳」をめぐる問題は大変重要であり、検討すべき要素をはらんでいる。
 大正7(1918)年の「赤い鳥」誌誕生から、昭和25(1950)年に日本の児童文学の世界に新風を巻き起こした「岩波少年文庫」創刊までの時期を中心に、「翻訳」の在り方の歴史を辿る。「原語からの直接訳でなければならないのか」、「抄訳ではなく完訳であるべきなのか」、さらには「訳者による再話は許されるのか」という大きな問題について、様々な角度から検討していく。具体的には、主だった翻訳者を取り上げ、その翻訳方法について考察しながら、授業を進めていく。
 この授業では、特にロシア文学作品を例にとって学んでいくが、折に触れ他の外国作品についても取り上げる。
 児童向けの翻訳の場合は、漢字の使い方や、言葉の言い回しなど大人向けの翻訳とは違った心遣いが必要になってくる。「花」を「お花」といえば、児童文学になるわけではない。
 児童文学についての知識も学びながら、「翻訳」における様々な問題についてじっくり考えていきたい。
 また受講者間での意見交換の機会をもつため、「ワールドカフェ」形式の討論会を2回行う。
 さらに、毎回希望した受講生に授業に関する発表(5分~10分程度)を行ってもらう。

授業計画

第1回 オリエンテーション(本講義の目的と概要)
 本講義の目的と概要について説明する。

第2回 ロシア民話「おおきなかぶ」の翻訳をめぐってⅠ
 日本児童文学史における「翻訳」の在り方を探る前に、導入として、現在でも子どもたちに絶大な人気のあるロシア民話「おおきなかぶ」を取り上げ、その翻訳の歴史について学ぶ。

第3回 ロシア民話「おおきなかぶ」の翻訳をめぐってⅡ
 引き続き「おおきなかぶ」を取り上げ、複数の翻訳者による「翻訳」の違いについて検討する。1980年代にこの作品をめぐって起こった教科書問題についても取り上げる。

第4回 日本児童文学界におけるロシア文学作品の翻訳の諸問題~翻訳者の歴史 楠山正雄の場合①~
 1960年代の完訳論争が巻き起こる以前は、ロシア文学作品を児童向けに翻訳した人たちは、「ロシア語を専門としない児童文学者」と「児童文学を専門としないロシア文学者」の二系統に大別できる。「ロシア語を専門としない児童文学者」たちのグループの一人として、児童文学者である楠山正雄(1884-1950)の翻訳作品を取り上げる。イソップやアンデルセンの再話をする傍ら、ロシアの象徴派の詩人であり作家のソログープの作品を、初めて児童向けに翻訳し「赤い鳥」誌に発表した。ロシア語を専門としない児童文学者の翻訳の在り方に迫る。

第5回 日本児童文学界におけるロシア文学作品の翻訳の諸問題~翻訳者の歴史 楠山正雄の場合②~
 引き続き楠山正雄の翻訳作品を検討し、当時の翻訳に対する姿勢について考える。

第6回 日本児童文学界におけるロシア文学作品の翻訳の諸問題~翻訳者の歴史 浜田広介の場合①~
 「泣いたあかおに」や「むく鳥の夢」で知られる童話作家浜田広介(1893~1973)は、創作活動と並行して、外国文学作品を積極的に児童に向けて翻訳し、発表した。浜田も、楠山堂同様、「ロシア語を専門としない児童文学者」のグループに入る。浜田が取り組んだ「トルストイの童話」の翻訳作品を中心に、彼の翻訳に対する姿勢を探る。

第7回 日本児童文学界におけるロシア文学作品の翻訳の諸問題~翻訳者の歴史 浜田広介の場合②
 引き続き、浜田広介の翻訳作品について検討する。第4回、第5回で取り上げた楠山正雄も浜田広介も早稲田大学英文科の出身である。実は、彼らと同時代に、児童向けにロシア文学の作品を翻訳した人たちの中には、同大英文科出身者が数多くいる。当時の英文科におけるロシア文学研究の在り方についても触れたい。

第8回 日本児童文学界におけるロシア文学作品の翻訳の諸問題~翻訳者の歴史 昇曙夢・中村白葉の場合
 「児童文学を専門としないロシア文学者」グループから昇曙夢(1878~1958)と中村白葉(1890~1974)を取り上げ、彼らの児童向けの翻訳作品について検討する。昇曙夢によって翻訳・紹介されたロシアの作家ソログープの作品は、大人のみならず児童をも読者として取り込んだ。日本の児童文学界に拡がったソログープ熱を考察する。

第9回 日本児童文学界におけるロシア文学作品の翻訳の諸問題~岩波少年文庫と湯浅芳子~
 マルシャーク作の『森は生きている』の翻訳者と知られる湯浅芳子は、チェーホフの戯曲の翻訳でも高く評価された。現在も、彼女の名を冠した演劇賞がある。ロシア語を習得している湯浅は上記の作品以外にも、同時代のロシアの作家による文学作品を児童向けに多数翻訳している。「森は生きている」は岩波少年文庫の一冊として出版された。1950年に創刊された「岩波少年文庫」は、これまでの日本における児童文学の翻訳作品の在り方に一石を投じる。「完場」、そして「原語からの直接訳」を目指す「岩波少年文庫」の翻訳に対する姿勢を、湯浅の仕事を通して検討していく。

第10回 ワールドカフェ形式の討論会Ⅰ(議題はこれまで学習してきたテーマの中から選択)

第11回 日本児童文学界におけるロシア文学作品の翻訳の諸問題~岩波少年文庫における翻訳とその諸問題
 岩波少年文庫における翻訳作品の在り方について、引き続き検討する。

第12回 日本児童文学界におけるロシア文学作品の翻訳の諸問題~完訳主義をめぐって~
 1960年代に「日本児童文学界」に巻き起こった「完訳論争」について考察する。

第13回 日本児童文学界におけるロシア文学作品の翻訳の諸問題~固有名詞の訳し方から~
 外国文学の翻訳作品の登場人物の名前の表記について考える。さらに、タイトルの訳し方についても検討する。

第14回 ワールドカフェ形式の討論会Ⅱ
 あらためて「日本児童文学界における外国文学作品の翻訳とその諸問題」について討論する

第15回 現代の日本児童文学界における翻訳事情
 日本児童文学における英・仏・独・露の児童文学作品の現在の翻訳事情を考察する。