東アジアの美術工芸

基本情報

科目名
東アジアの美術工芸
副題
異文化との接触と変容する価値
授業タイプ
講義科目
担当教員
楢山満照
曜日
金曜日
時限
3時限
授業シラバス
[シラバスへのリンク]

授業概要

 「china」といえば陶磁器(やきもの)、「japan」といえば漆器、という意味があるように、東アジア世界の手仕事は、これまで西洋世界で驚嘆のまなざしで受け止められ、羨望の的にもなりながら、確固たる地位を築いてきました。そこで本科目では、主に東アジアの美術工芸に焦点を当て、それが異文化と接触し、受け入れられ、新たな価値を付加されてきた様相を追いながら、自他の文化理解を促す文化史的考察を試みます。
 取り上げる対象は、金工品、陶磁器、玉器、漆器などになります。超絶技巧を駆使したそれらの作品群は、とりわけ中華帝国の威信そのものでもありました。そしてそれらは、東アジア文化圏での交流の場だけではなく、時には西洋世界との政治交渉の場において影響力をもつことさえありました。そのような東洋世界の作品群に対して、西洋世界は何を求め、それをどう理解し、どう利用してきたのか。本科目では、異文化交流の視点から、そうした芸術と政治の接点について分析していきます。

授業計画

第1回 ガイダンス
本科目の目的、進め方のほか、東アジアの美術工芸の特質と、それを取り巻いてきた歴史的状況について説明します。
第2回 青銅器とは何か
この回では、古代のブロンズの器のかたちと、そこに表現された図像を読み解き、青銅器が美の王道といわれる理由について説明します。
第3回 中国の鏡の世界
洋の東西、古今を問わず、姿をありのまま映し出してしまう鏡には、常にマジカルなイメージがつきまといます。この回では、中国の青銅鏡の背面にあらわされた図像から、かたちになった願いを読み取っていきます。
第4回 シルクロードをわたった美術工芸-正倉院宝物の形成とその意義
奈良東大寺に伝わった正倉院宝物群は、かつて中華世界を核としておこなわれた東アジアの政治交渉と文化交流の様相を鮮明に物語るものです。この回では、多彩な素材を駆使したその技法と意匠の国際性について説明し、あわせてその国際性を育んだ交易活動と、それを担った民族について考察します。
第5回 金銀器のきらめき その1
有史以来、概ねどの文化文明も、どの民族も、ゴールドとシルバーの煌びやかな光に魅了されてきました。だたし、時代や民族によって、そこに込められた願いや想い、そしてほかの金属素材との価値基準には、しばしば差異があります。この回では、美術工芸における素材としての金の特質について説明します。
第6回 金銀器のきらめき その2
前回に引き続き、金銀器を特集します。この回では、特に銀の特質について説明します。
第7回 陶磁器の見かた その1-やきものの歴史と技法
美術工芸のなかでも、日用品から芸術品へと進化、発展を遂げた珍しいジャンル、それが「やきもの」です。地球上のどこにでもある土を素材とするやきものは、人類がはじめて手に入れた化学ともいわれます。この回では、陶器と磁器の違いや、中国の陶磁器がもたらした西洋の陶磁器への影響について説明します。
第8回 陶磁器の見かた その2-青磁の美
芸術をこよなく愛し、「風流天子」といわれた北宋の徽宗(在位1100~1125)。この回では、徽宗にとっての芸術の意味あいを考えながら、かたちのシンプルさと研ぎ澄まされた青を追求した北宋時代の汝窯の青磁について概観します。
第9回 陶磁器の見かた その3-天目碗とは何か
奇跡の発色を誇る中国南宋時代の曜変天目碗や油滴天目碗。この回では、歴代の支配者たちが喉から手が出るほど欲したがったそれらの名品を紹介しながら、その価値の変容と政治的な作用について説明します。
第10回 陶磁器の見かた その4-唐物から、高麗物、和物へ
室町幕府が勢力を失いつつあった15世紀末以降、新たな時代の担い手となっていったのが、町衆や豪商たちでした。それまでの茶の湯には、権力者の嗜み、という側面がありましたが、それを楽しむ層が急速に拡大していきました。この回では、茶道具などに取り合わせの妙を求めた「数寄(すき)」という風潮や、日本ならではの「佗茶」文化を紹介しながら、もてはやされる茶道具が、天目碗などの唐物から、井戸茶碗などの高麗物や楽茶碗などの和物へと変遷していく過程をみていきます。
第11回 陶磁器の見かた その5-柿右衛門からマイセンへ
日本国内のみならず世界を席巻したやきものが、17世紀の日本にはありました。江戸時代初期に九州有田で活躍した陶工、初代酒井田柿右衛門(1596~1666没)。この回では、柿右衛門が創始した「柿右衛門様式」と、それがドイツの高級磁器マイセンに与えた影響を紹介しながら、「東洋から西洋へ」という文化の伝播の事例を考えていきます。
第12回 近世の美術工芸にみる超絶技巧
この回では、幕末から明治時代にかけて製作された様々な素材の工芸品を紹介します。空前絶後の超絶技巧と評される当時の日本の工芸技法。それが西欧の美術工芸品に与えた衝撃と影響について解説します。
第13回 日本刀の美学 その1
武士の魂、あるいは武士道の象徴ともいわれる日本刀。極めて殺傷能力の高い実用の兵器でありながら、一面においては装身具という意味合いもあり、高度な金工技術が駆使された芸術品として、世界規模でマーケットが確立されています。さらに昨今は、その冴え渡る妖しさに魅入られる若者が続出し、オンラインゲームの影響もあって空前の日本刀ブームだとか。この回では、日本刀をめぐる物語や逸話を紹介しながら、日本刀がグローバルな展開をみせるに至った要因について考えていきます。
第14回 日本刀の美学 その2
前回に続き、この回でも美術工芸の世界における日本刀の特異性について解説します。
第15回 理解度の確認
授業時間中にテストを実施し、理解度の確認をおこないます。あわせて解説もおこないます。