翻訳とその諸問題

基本情報

科目名
翻訳とその諸問題
プログラム
異文化接触
授業タイプ
講義科目
担当教員
南平かおり
曜日
金曜日
時限
5時限
教室
33-433
授業シラバス
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授業概要

 本授業の前半では、「女性翻訳者とロシア文学」という側面から、日本の文学界におけるロシア文学作品の移入の歴史を辿る。具体的には、瀬沼夏葉(1875-1915)や神川松子(1885-1936)を取り上げる。夏葉は明治期に原語のロシア語からチェーホフの作品を直接翻訳したことで知られる。研究者の評価にはばらつきがあるが、日本におけるロシア文学の移入の様相を探る際には、欠くことのできない人物である。神川松子は、若き頃は政治運動に身を投じ、後に二葉亭四迷や昇曙夢に師事し、ブーニンの作品を翻訳して紹介した。彼女らを通して、明治・大正期の日本におけるロシア文学の翻訳作品の在り様を概観する。
 また、マルシャーク作『森は生きている』を翻訳した湯浅芳子(1896-1990)やロシア民話『大きなかぶ』の翻訳で知られる内田莉莎子(1928-1997)にも焦点を当て、昭和期から現代に至るまでの日本の児童文学界におけるロシア文学の受容について触れたい。
 後半からは、「日本の児童文学における外国文学の翻訳作品のあり方」に着目する。ロシア文学者昇曙夢が明治期に紹介したソログープという同時代のロシア作家の作品は、熱心な“おとな”の読者を獲得しただけでなく、日本の児童にも広く読まれるようになった。この状況を考察することによって、明治・大正期に日本の児童文学界のなかでロシアを中心とした外国の文学作品がどのような役割を果たしたのか考えたい。再話やリライトの問題も取り上げる。

授業計画

1: 第1回 オリエンテーション(本講義の目的と概要)
本講義の目的と概要について説明する。

2: 第2回 瀬沼夏葉とロシア文学
瀬沼夏葉が、どのようにしてロシア文学と出会い、尾崎紅葉門下で文章修業をし、チェーホフの作品を原語のロシア語から直接翻訳するに至ったのかということに着目する。
 また彼女の翻訳活動を通して、明治期の日本においてロシア文学がどのように移入されたのか、その経路についても考察する。

3: 第3回 瀬沼夏葉~チェーホフ作品の翻訳をめぐって~
引き続き、瀬沼夏葉を取り上げる。
 夏葉の翻訳の文体に対する当時の評価と現在の研究者の評価の違いについて考察する。

4: 第4回 雑誌「青鞜」と外国文学翻訳作品
瀬沼夏葉も関わった雑誌「青鞜」には、ロシア文学をはじめ多くの外国文学の翻訳作品が掲載された。
 夏葉の翻訳によるチェーホフの戯曲をはじめ、モーパッサン、ポーの作品がページを彩った。
 同誌における翻訳作品のあり方について検討する。

5: 第5回 雑誌「青鞜」とロシア文学翻訳作品
引き続き雑誌「青鞜」を取り上げる。
 特に掲載回数の多いロシア文学の翻訳作品に焦点を当てる。

6: 第6回 神川松子とロシア文学
政治運動に参加していた神川松子は、後に二葉亭四迷と出会い、師事し、その後は昇曙夢の弟子となって、ロシア文学の翻訳者となった。
 まだ当時それほど知られていなかったブーニンの作品を紹介した神川松子の翻訳活動について考察する。

7: 第7回 湯浅芳子~戯曲の翻訳をめぐって~
今でも「岩波少年文庫」の1冊として広く読まれているマルシャーク作の『森は生きている』。
 この作品の翻訳者である湯浅芳子は、チェーホフの戯曲の翻訳で高く評価された。現在も、彼女の名を冠した賞があり、外国戯曲の翻訳、脚色や上演などの分野で優れた業績を残した人に贈られている。湯浅芳子の人生と翻訳という仕事について考える。

8: 第8回 内田莉莎子とロシアの絵本1
現在でもロシアの絵本として、日本の子どもたちに圧倒的な人気を誇る内田莉莎子訳の『おおきなかぶ』。
 この絵本が誕生した背景を当時の日本の児童文学界の潮流と絡めて、考察する。

9: 第9回 内田莉莎子とロシアの絵本2
内田莉莎子の翻訳した数々のロシア、ポーランドの絵本を紹介し、子どもたちを惹きつける文体について考える。
 また彼女の翻訳に対する姿勢についても考察する。

10: 第10回 昇曙夢と日本の児童文学界
昇曙夢によって翻訳・紹介されたロシアの作家ソログープの作品は、大人のみならず児童をも読者として取り込んだ。日本の児童文学界に拡がったソログープ熱を考察する。

11: 第11回 浜田廣介とソログープ
「泣いた赤おに」や「むく鳥の夢」などで知られる日本の児童文学者の代表的人物浜田廣介は、創作の傍ら外国文学の翻訳にも力を入れた。
 ロシア文学を中心に、浜田廣介が翻訳したさまざまな外国文学について考察する。

12: 第12回 再話とリライトの問題
明治から昭和(戦前)にかけて、日本の児童文学界で行われていた翻訳文学の再話やリライトの問題に焦点を当てる。

13: 第13回 「赤い鳥」誌や「童話」誌にみる外国文学翻訳作品
大正時代に創刊された「赤い鳥」誌や「童話」誌を含む5大児童文学雑誌を取り上げ、そこに収録された翻訳作品を比較検討する。

14: 第14回 世界の児童文学アンソロジーにおける翻訳の諸問題
『世界少年少女文学全集』(創元社、1954)のような大正から昭和にかけて編まれた児童向けの翻訳作品のアンソロジーを
 取り上げ、作品の選択の在り様を探る。

15: 第15回 現代の日本児童文学界における翻訳事情
日本児童文学における英・仏・独・露の児童文学作品の現在の翻訳事情を考察する。